◉陸前高田市
気仙大工左官伝承館 「希望の灯り」
「ここは命を守った場所なんです」
気仙大工左官伝承館は茅葺の古民家だ。防虫のために毎日火を焚いている。あの夜、その囲炉裏の火に大きな鍋をかけて野菜を入れ、一束だけあったうどんをちぎって入れ、ここに避難して来た約60名で少しずつ分けて朝を待った。
「暖かいんですよ。火というのは生きています。火の暖かさというのは食べ物の暖かさ、お布団の暖かさ、光の暖かさ。蝋燭ひとつの暖かさで、当時はどれだけ救われたか。ここでは45日くらい水道も電気もこなかったから、この火を見ると当時のことを思い出します」
「希望の灯り」は、神戸に灯されている「1・17希望の灯り」から分火されたものだ。壊滅的な高田松原の様子を見た神戸のNPOが物資を持って駆けつけ、その縁が建立のきっかけになった。高台にある伝承館からは、広田湾が見える。当時の広田湾は海の底が見えるくらい水が引き、やがて津波が街へ向かっていった。
「広田湾を望みながらこの灯りの前に立つと、すぐ逃げなきゃだめだったという思いを再認識させてもらえます。毎日見ていてもそう。石碑だけでは、何十年と同じところを通っていてもなかなか見る人はいない。だからやっぱり、子や孫にずっと耳に残るくらいに伝えて行くことがすごく大事なんじゃないかと思うんですよ」