◉上閉伊郡大槌町/吉祥寺
抜苦地蔵
町がなくなると思った。地震のあと建物を確認し、山側のお墓から海側のお墓に上がった時には、もう湾の潮は引いていた。次第に湾のなかが洗濯機のようになり、それが一気にせり上がり、町のなかになだれ込んで行った。慌てて指定避難所になっている吉里吉里小学校に行き、そこに避難していた人たちを高台にある寺に誘導し、そこから着の身着のままで逃げて来た250人での避難所生活が始まった。裏山から湧き出る水と、仏様にお供えする米があったので、その夜から炊き出しをし、5ヶ所の避難所にここから3日間配達するなどして、約50日間、4月の終わりまで避難所となった。
建物が残ったので、お寺は遺骨を預かる場所になった。廊下の奥まで遺骨が並んでいた。今でも身元不明の遺骨19霊を預かり、ずっと供養を続けている。大槌町の犠牲者は1︐285名、そのうち430名が行方不明のままだ。そういったことが、復興に影を落としているという。檀家の約6割が被災し、住宅の再建もまだこれからだ。
慰霊碑の建立は平成29年3月(写真はレプリカ)。抜苦地蔵は衆生を苦しみから救い、福楽を与える仏の慈悲を意味している。生きたくても生きることが叶わなかった犠牲者の供養と残された遺族が強く生きていくために、そして二度と同じ苦しみや悲しみを繰り返さないために、海が見える場所に設置する。ここから見える景色は素晴らしい。朝日も昇るし、月の夜は海が光って最高だという。夜には波の音もここまで聞こえ、天の川も見えるそうだ。吉里吉里海岸の鳴き砂も流されずに残っている。状況はまだまだ厳しいが、この町の良さをお寺から発信していきたいと考えている。